2022年9月17日(土曜日)、横須賀市文化会館大ホールでおこなわれた、映画「地球交響曲 第九番」上映の舞台ですばらしい歌を披露してくださったソプラノ歌手 鈴木慶江さんより、メッセージエッセイをいただきました。
No.127 令和5年1月15日発行「16ミリ試写室だより」掲載
エッセイ「風」に寄せて
ソプラノ歌手 鈴木慶江
記念すべき2023年1月1日のカウントダウンは、タイのバンコクで、3万発の花火と共に感動的な50歳の誕生日を迎えました。
花火が打ち上げられたチャオプラヤー川周辺は、趣き豊かな老舗高級ホテルが立ち並ぶ場所で、朝も夜もテラスからの景色に癒されました。川のある場所は世界中どの街に行っても、時間の流れがゆっくりしていて、どことなくのんびりしている感じがして落ち着きます。
市街地は川沿いの雰囲気とは打って変わり、超高層ホテルが所狭しと建ち並び、その数が東京よりもはるかに多いのに驚きました。どのホテルも一つ一つがデザイン性に溢れていて、アジアのパワーに圧倒されました。
思い返すとヨーロッパへ行く事が多く、アジアは北京と台湾、シンガポールにしか行ったことがなく、冬の東南アジアは初めてでした。この時期のバンコクは、ベストシーズンで湿気が少なく最高30度、最低20度前後と、1月とは思えない快適な陽気が最高に気持ち良く、川伝いに船で要所要所へ行くのが毎日の楽しみでした。
元旦には、船に乗り『ワット・アルン』へ。三島由紀夫の小説「暁の寺」でも有名な美しい寺院です。遠くで見ると神々しく近寄り難いのに、近くに寄るとモザイク一つ一つ、全て違う可愛い図柄が描かれていて、ホッコリしつつ、その緻密なデザインに感動しました。
民族衣装のシワーライに着替え、夕焼けの光の中に佇むと、急に時空を飛び越えたかのような感覚になりました。自然と呼吸も深くなり、夕方の風に揺れる塔に吊るされた小さな鐘の音たちもお祈りの声も観光客の喧騒もだんだんと遠ざかって、そこに溶け込んでいくようでした。
この20数年は常に気の抜けない年末年始でした。年末にはクリスマスコンサートや第九公演、年明けにニューイヤーコンサート、元旦2日にはオーケストラリハーサルが始まる為、クリスマスもお正月も落ち着かない年の方が多く、当然、誕生日気分もお預けです。特にこの数年は見えない不安との闘いの日々でしたので、こんなにもゆったりとした気持ちで誕生日を過ごせる日が来るなんて、夢のようでした。
初めて海外で新年を迎えた50代の幕開けは、まるで人生の折り返しを祝ってくれているかのような、幸せと感謝溢れるかけがえのない時間になりました。
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